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大津家庭裁判所 昭和52年(家)370号 審判

申立人 財団法人○○○○会

代表者理事東田幸一(仮名)

主文

被相続人坂本一郎の相続財産である別紙(略)目録記載の財産を、いずれも申立人に分与する。

理由

1  申立人は被相続人の遺産について、被相続人との特別縁故を事由として、主文同旨の審判を求めた。

2  そこで、当裁判所の申立人役員南壮一郎及び同職員植木順一に対する各審問の結果並びに関係記録中の当庁家庭裁判所調査官作成の調査報告書等の各資料を総合すると、次のような事情が認められる。

(1)  申立人は刑余者等の収容保護等の更生保護事業を目的とする公益法人であり、被相続人は昭和四一年二月五日申立人施設に刑余者として入会以来昭和五一年二月九日に死亡するまで一〇年間にわたり同施設に居住して、その補導援護を受けていたものである。

(2)  被相続人は、昭和一四年八月一一日に大阪府柏原市で出生し、○○行商を営む父母と伴に各地を転々とするうち、五歳時に母病死し、一三歳時に父が北海道で病死後は東京の叔父を頼つて上京したが見当らずに放浪生活に入り、一六歳時頃から関西、関東を転々として日雇労務に従事していたが、昭和三七年一二月に京都市内で仕事仲間と喧嘩し殺人未遂罪を犯して翌三八年二月に京都地方裁判所で懲役三年の刑を言渡され、昭和四一年二月に滋賀刑務所を出所したが引受人がなく申立人施設に入会した。

(3)  上記入会後土工として就業した被相続人は、当初数年は職場を転々とし素行上も精神的にも不安定な態度が続いていたが、申立人役職員の指導や激励により昭和四六年頃から更生意欲を生じ工員として職も安定するとともに普通自動車運転免許を取得し、昭和四九年七月から建材会社のトラック運転手として稼働し、生活状態も良好となつたので妻帯して家庭を持つべく、そのため無籍者の同人は申立人役員の助言により昭和五一年二月五日に大津家庭裁判所に就籍許可の申立をした矢先の同月九日早朝大津市内の国道上で交通事故死するに至つた。

(4)  被相続人の遺体を引取つた申立人は、役職員等が通夜、葬儀に引続き各週忌の法要、納骨等の供養のすべてを取り行い、今後も申立人においてその祭礼を司り供養を行つていくことを表明していること。

(5)  被相続人は死亡した際、現金六四万八、〇九九円のほか別紙(略)目録記載の郵便貯金(預金高五〇円)及び遺品(見積価額計一五万八、五〇〇円)を有していたものであるが、その交通事故死により受けた損害賠償金二、一二四万〇、九四〇円の相続財産を有するに至つており、被相続人の身寄りは不明の状態で、本件相続財産管理人の石原弁護士は申立人に対し本件分与がなされば公益事業上有意義であるから、その管理人報酬は辞退したいと申出ていること。

3  以上の事実関係からすれば、被相続人は死亡前一〇年間の長きにわたり申立人施設に起居して援護を受け、その補導助言により物心ともに安定した生活を営むようになつていたもので、同施設は身寄りのない被相続人には家庭と同視し得べき生活関係にあつたものとみられ、その恩情を受けた被相続人の意思を忖度するうえにおいても、申立人に対し被相続人の特別縁故者としてその遺産のすべてを分与するのを相当と認め、本件相続財産管理人石原即昭の意見を聴き、民法九五八条の三により主文のとおり審判する。

(家事審判官 土井仁臣)

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